機動戦艦ナデシコ迷作劇場
『ルリルリ竹取物語』その1
いまは昔、竹取のアキトという者がいました。野山に分け入って竹を取り、それを売って生活していたそうです。
竹取のアキトは妻のユリカと一緒に、貧しいながらも楽しく暮らしていました。ただ一つの悩みは、二人は子供に恵まれなかった事です。………あの二人の子供ってちょっと想像できないけどね。
「ねえねえアキト。ユリカ、川へ洗濯に行って来るね。」
「あれ、そんなに洗濯物たまってたか?」
「だって、もしかしたら大きな桃に入って赤ちゃんが流れてくるかもしれないじゃない? ドンブラコーって。」
「…おまえ…今いくつだ!?」
そんなユリカにあきれていたアキトですが、まさか自分がそういう体験をするとは思ってもいなかったでしょう。ほんとに数奇な運命の人ですね。
「うわー、たいへんだユリカ!」
ある日、いつものように竹を取りに山へ入っていたアキトが慌てて帰ってきました。
「どしたのーアキト?」
「光る竹を切ったら、中からこんなものが!」
アキトの手には、小さな小さな手のひらサイズの女の赤ちゃんがちょこんとのっていました。淡い瑠璃色の髪、雪のように白い柔肌、金色の眠そうな瞳が目の前のユリカを見つめています。
「うわぁ、かわいー。」
ユリカは赤ちゃんを手に取り、ほっぺにスリスリしました。赤ちゃんはちょっと迷惑そうな顔をしています。
「ねえアキト、この子あたし達で育てようよ。きっと神様が日頃の行いのいいあたし達に授けてくれたんだよ。」
ユリカの日頃の行いを思い出し、アキトは呆れています。
「だめだ、本当の親が探してるかもしれないだろ。とにかく役所に行こう。」
ここはお役所。民生委員のプロスペクターさんが話を聞いてくれました。
「そういった赤ん坊の捜索願は出ていませんねぇ。しょうがない、本当の親御さんが見つかるまで、あなた達が面倒を見て下さいませんか? なに、ただとは言いません。里親制度の育児支援金を手配して差し上げましょう。金額はちょちょいとこんなところで。」
プロスペクターさんがソロバンではじき出した金額は現在のアキトの収入を大きく上回るものでした。
「こどもは国の宝ですから、はい。」
「わーい、やっぱり引き取ることになっちゃったわね。」
「しょうがない。俺も努力するから、ユリカおまえもちゃんと世話をするんだぞ。犬や猫と違うんだから。わかってんだろうな!?」
「わかってるって。ブイ!」
ユリカは根拠のない自信をもってブイサイン。赤ちゃんも無表情のまま、その小さな指でブイサインを真似ています。不安でいっぱいのアキトでした。
「ねえねえ、ところでこの子の名前どーしよーか?」
「そうだな、ラピス…」
ピカッゴロゴロドッカーン!!!!!!
突然、アキトのそばの杉の木に雷が落ちました。赤ちゃんが不満そうな表情をしています。ブーブーブー。
「…じゃなくて、ルリって名前にしようか。」
アキトの青ざめた顔に冷汗が浮かびます。
「ルリ…、ルリちゃん! いい名前。よかったね、ルリちゃん。」
ルリと名付けられた無表情な赤ちゃんの口元がかすかに笑いました。
それから、それから…。
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