機動少女はいぱぁミリィ
「ひまねー。」 ぽかぽか暖かいお日さまの光を体にあびて少女はつぶやいた。 辺境のとある島。海岸近くの小さな丘の上にかわいい木造の建物。入口の上には「ミリィのおかしやさん」と書かれた看板が下がっている。南側のカフェテラスにその少女は座っていた。
「味には自信あるのになー。」 ミリィはテーブルの上の皿から紫色のマドレーヌらしきものをつまんでほおばった。今日はまだ一個もお菓子が売れてない。昨日はノーマル(普通の)クッキーが一袋売れただけだ。はっきりいって店の経営は深刻だった。 周りに海と緑以外何もない風景をぼーっと眺めていると、誰かが丘の小道をヨタヨタと登ってくるのが見えた。ふわふわもこもこの毛皮、大きな耳、つぶらな瞳、特徴のある鼻と口。それは大きな赤いカバンを肩から下げた獣人だった。 「やあ、ミリィ。今日はいい天気だね。」 「なーんだ、配達屋のコアランか。お客かと思ったじゃない。」 ミリィがコアランと呼んだ人物はコアラのDNAをもつアニマノイド(獣化人間)だ。普通の人間の姿にもなれるはずだが、ミリィは人間の姿のコアランを見たことがない。よほど、プリティなコアラの姿を気に入っているのだろう。 「まあ、ついでだから何か買っていってもいいけどね。」 「じゃあじゃあ、これなんかどぉ?」 ミリィは店の中から今朝作ったばかりのお菓子を運んできた。見た目はアップルパイのそれは、おどろおどろしい色に不気味な臭気が漂っていた。表面には血管のようなものがピクピク蠢いている。 「ミリィ特製、ゴゲジャバルの肝のパイ包みぃ。マンドラゴラのエキスが隠し味の絶品よ!」 …しばらく沈黙の時が流れた。
「いったい何がいけないのかしら?」 結局、コアランはノーマルクッキーを一袋だけ買って帰っていった。 ミリィはお菓子の不人気が不服だったが、その原因に全く気づいていない。最高の味を追求するあまり、デコレーションには完全に無関心だったのだ。先ほどのパイも口に入れれば味皇の「うまいぞー!」が発現するほどだというのに…(あっ今は中華一番か)。 気を取り直し、ミリィはコアランが配達していった手紙を広げた。 「あっ、アプリコットおばさんからだわ。」 アプリコットおばさんというのはこのナナシ島唯一の医者で、ミリィの恩人でもある。一年前から島での生活を始めたミリィは、彼女にいろいろ世話になっているのだ。 (親愛なるミリィ・ルゥ、そろそろ定期検診の時期だからいらっしゃいな。秘蔵のアップルティーを用意して待ってるわ。お茶に合うお菓子をお願いね。) 「そうか、もうそんな時期かぁ。一年って早いわね。」 この島に住んでいる、ミリィのような機械系の人間もコアランのようなバイオ系の人間も、全員が年に一度はアプリコットの検診を受けているのだ。 「よーし、がんばって最高のお菓子を作ってみせるわ。」 ミリィはお菓子作りに闘志を燃やした。 (追伸。お茶にはノーマルクッキーが合うと思うわ。くれぐれもゴゲジャバルの肝のパイ包みだけはやめてね。) 「あぅー。」 …ミリィはこけていた。
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