機動少女はいぱぁミリィ
第1話「ナナシの島のミリィ・ルゥ」その3


「い…入れ歯?」

 ミリィの前に現れたもの、それは空中に浮かぶ幅1mはある歯と歯ぐきだった。その表面は唾液のような透明の液体でギトギトに塗れている。一見すると大きな入れ歯のように見えるが、それは作り物ではなく生きているようだ。

「し…新種の二枚貝かしら…?」>/b>

入れ歯モドキ出現! 入れ歯モドキは動かない。ミリィはじっくり観察しようとおそるおそる近づいた。すると接近に反応したのか、それはゆっくりと口を開き始める。口の中には何もない、無限に続く暗黒の異空間だった。

がぢぃっ!

「わひゃっ!」

 突然、歯が閉じられ、ミリィは慌てて後ろに飛び退いた。その場にとどまっていたら上半身を食いちぎられていただろう。

「ちょっと、あなた何するの!危ないじゃない!」

 ミリィは(アメリア調で)指さして抗議をするが………しばしの沈黙が流れた。

GRRRRRRR!

「わーん!」

 入れ歯モドキは(機界四天王ペンチノンのような)奇声をあげて襲いかかってきた。鋭い歯をガチガチ開閉させている。ミリィはドタバタと逃げ回るしかなかった。

「あぁっ、しまった!」

 いつのまにか彼女は切り立ったガケの前に追いつめられていた。もう逃げ場はない。

「買ったばかりでもったいないけど…これを使うしかないわ。ううっ、15Gもしたのにぃー。あぁもったいない!」

 ミリィがお菓子を入れたバスケットケースの中から取りだしたのは野球のボール大の紅い玉「魔宝玉」だった。この中には攻撃用のつくりおき魔法が封印されている。魔力の無い者でも、解呪の呪文をとなえるだけで使えるという護身用のアイテムだ。それにしても…。

「あぁ、もったいない!」

 …今使わずにいつ使うのだ、ミリィ!?

「しょうがない、Release!

 さすがにあきらめ、ミリィは解呪の呪文と共に魔宝玉を入れ歯モドキに投げつけた。宝玉から吹き出した炎が入れ歯モドキを包む。普通の生き物なら骨を残して燃え尽きるほどの業火だ。

「15Gの恨み、思い知ったか!」

 勝ち誇るミリィだったが…。

GRRRRRRR!

 入れ歯モドキは無傷だった。しかも炎を口の中に吸い込んでいる。業火はどんどん小さくなっていき、ついには完全に消えてしまった。

「うそ…。」

 驚愕するミリィ。彼女はあの魔宝玉以外に攻撃の術を持ってはいなかった。

…GRRRRRRR!

 入れ歯モドキが異空間につながる口を開くと、そこには先ほど吸い込んだ炎が球状に渦巻いていた。

 その火球がミリィに向かって放たれる。

「!」

 先ほどとは逆に、今度はミリィが炎に包まれた。サイバーノイドとはいえ、普通の少女であるミリィにはこの業火に対抗する手段はない。

「私…死ぬのかしら?」

 全身の感覚が麻痺した中、ミリィの意識は次第に失われていった…。


Back List Next