機動少女はいぱぁミリィ 第2話「ふたつの炎」その1
少女は宮廷の庭園に続く回廊を歩いていた。同じ回廊を歩いていた人々が彼女を見て慌てて道をあける。青い軍服を着たその少女の名は「ウォーター・マリン」、この国のトップレベルの権力者の一人だ。だが人々が道をあけたのは彼女が権力者だからだけではない。怒らせると後が怖いといわれるマリンが怒りを顔に出して歩いていたからだ。 マリンは緑の木々が茂る明るい庭園に出た。その中央のテラスに置かれた白いテーブルには、既に二人の少女が座っていた。マリンと同じ、皇帝親衛隊クイーンズ4所属の「グランド・ケイト」と「サンダー・アリス」だ。 淡い緑色の清楚なドレスを着て静かに紅茶を飲んでいるケイトに対し、オレンジ色のエプロンドレスを着たアリスは口のまわりをクリームで真っ白にしながらショートケーキをほおばっている。ちょっと見ると姉妹のほほえましい光景だ。 「あー、マリン姉さまだぁ。」 「マリン、あなたも一緒にお茶しない?」 いつも通りのパープリンなアリスと、戦闘時の優秀な指揮ぶりとは180度違うほのぼのモードでお茶をすすめるケイトの二人に、今までこらえていたマリンの怒りが噴火した。 「いったいどういう事ですの!? わたくし達クイーンズ4に新しいメンバーを入れるだなんて!」 「ああ、その事ね。まあ、落ち着いてマリン。」 憤慨するマリンに、ケイトは紅茶を飲みながら静かになだめた。 「この一年の間、我々三人でクイーンズ4を構成し、皇帝親衛軍クイーンズフォースを指揮してきた訳だけど、本来クイーンズ4は四人。ファイヤー・ルージュの抜けた穴は大きいわ。」 「だからって…。」 反論しようとするマリンを、ケイトが再び制する。 「それに我々クイーンズ4の目的の一つは、女性指揮官を軍の広報に利用する事によるシビリアンコントロール。つまり国民のアイドルになることね。」 「そんな、『じゃじゃ馬カルテット』じゃないんだから…。」 マリンはあきれ顔だ。 「国民の反応も好意的だし、いまさらクイーンズ4をクイーンズ3には改名できないでしょう? ルージュの件は病死として公表している訳だけれど、軍事パレードも近いことだし、どうしても新しいファイヤー型コマンダーが必要なのよ。」 「………。」 正論であるケイトの説明にマリンは反論できないでいる。ちなみにこの会話の間にも画面(?)の端ではアリスがもくもくとケーキを食べている。チュチュかおまえは…。 「それにこれは皇帝陛下の御命令でもあるのよ。」 その言葉にマリンはハッとした。彼女たちにとって皇帝の命令は絶対である。 「しょうがないですね。わかりましたわよ。」 少しすねて言うマリンを、ケイトは優しいまなざしで見つめていた。 「ところで新しいメンバーってどういう方なんですの?」 「あぁ、アリスも聞きたい、聞きたい。」 二人の問いに、ケイトはすこし困った顔つきになった。 「名前は『ファイヤー・ミラージュ』。スペックはルージュとほぼ同等。ごめんなさい、実は私も話に聞いただけでこれだけしか知らないの。」 その時。 「私がどうかしたって?」 庭園の端の方から声がする。三人の視線がその声の主に集中し、そして愕然とした。 「ルージュ姉さま…。」 アリスの食べかけのケーキがボトリと地面に落ちた。
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