機動少女はいぱぁミリィ 第2話「ふたつの炎」その2
少女は灰色の世界に立っていた。そこには自分以外何も存在せず、上も下もわからない。少女は不安な気持ちでいっぱいだった。 「誰かぁ、誰かいないのぉー!?」 たまらず少女は叫んだ。しかし返事は無い。 「私を一人にしないでー!」 少女はとうとう泣き出した。 その時、背後に人の気配。少女は振り向いた。 それは黒い存在。漆黒の長い髪、漆黒の優しい瞳、漆黒のマント、そして漆黒の鎧。白く美しい顔以外は全て漆黒の男性だった。まるで宇宙の闇を凝縮したような、そんな雰囲気だった。 彼は何も言わずに少女に手をさしのべた。少女は少しとまどったが、おそるおそるその手に触れる。氷のように冷たい手だったが不快ではない。それどころか安堵さえ感じさせる。少女の胸は熱く高鳴った。 「ずっとこの人の側にいたい。」 漆黒のマントに包まれ、少女はそう願っていた。
「…ここは何処? …私は誰?」 少女は不思議な感覚の中で目覚めた。頭の中がぼんやりして記憶が引き出せない。まるで水の中を漂っているような無重力感。
誰かが少女に声をかけた。 「ミリィ…それって私の名前?」 「…寝ぼけてるの? あっそうか、コントロールパネルの精神拡張セレクターがまだOFFの状態だったわね。それポチっとな。」 少女の頭の中で何かが選択されたような感覚が起こった。 「今度はどう? 自分が誰かわかる?」 「あぅ!? あたしはミリィ…ミリィ・ルゥ。かわいいミリィは人気者。」 「ちぇっ、しょってらー…って、一応ちゃんと機能しているようね。」 少女…いや、ミリィはしだいに現在の自分の状況がわかりはじめてきた。彼女は透明なカプセルの中に満たされた羊水のような液体に浮かんでいた。服は身につけていない。ん? 誰だ、今喜んだSUKEBEは!? 「あれ? アプリコットおばさん。あたしどうしちゃったの?」 液体の中でも息ができ、声まで伝わるようだ。 「診察中はDr,アプリコットと呼んでちょうだい。」 科学者風の白衣を着たDr,アプリコットはそう言って浮遊スクリーンウィンドウに表示されたカルテを引き寄せた。ミリィはおばさんと呼んだが、彼女はそれほどは老けていない。見た目の年齢は30代前半というところだろう。 「あなた森の中に倒れていたのよ。目を覚まさなかったんで、ついでだから検診を始めちゃった訳。どう気分は?」 「まだ頭がボーっとする…。」 ミリィはうつろな目でそう言った。 「後頭部の打撲も右手の火傷もこの医療カプセルの中で回復しつつあるわ。他に異常は無いし、健康そのものよ。後は補助コンピュータのOSを最新のバージョン801にアップグレードするだけね。時間がかかるからもう少し眠っていてちょうだい。」 「うん。」 アプリコットの言葉に従い、ミリィは目を閉じた。 「またあの黒い人に会えるといいな。」 再び深い眠りの底へと落ちながら、ミリィはそう願っていた。
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